住まいのエッセンス 第3章キッチン その1

キッチンというものは、家に長くいる人にとっては、とても重要な場所だということを私は主夫に

なってから、はっきりと自覚しました。たぶん、どこの家庭でも、主婦はリビング、寝室に次いで、

長く過ごすところなのです。また、一番、汚れやすく、温度差のあるところでもあります。

キッチンが汚れていると、なんだか心が貧しくなってしまうような気もしますし、全然使っていない

と、人気(ひとけ)を感じさせずに寒々とした場所になってしまいます。芸能人の「お宅拝見」で

もっとも空々しいのがキッチンです。一体この「外食族」にこんな高価なキッチンなどいらないで

しょう。などと茶々を入れたくなります。金ぴかの鍋やシステムキッチンが使われずに泣いているのが

目に浮かび、ため息をついてしまいます。別荘などもそうなのですが、全く使われない家は本当に無駄

だと思います。ホームレスの人々に開放してあげたら、どんなにいいでしょう。年取ってから、使おう

なんて思っている人は、頑張りすぎて、早世してしまい、残された遺族には、無用の長物になってしま

うことも多いようです。家も住んでいないと、意外に早く痛んできます。


北九州のアパートはなぜか、南側にキッチンがあり、ガス管の関係か、その横に風呂場がありました。

キッチンには窓はなかったのですが、大きな板の扉があり、開くとベランダに出ることができました。

そこに洗濯機を置いていて、今から考えると非常に効率のいい家でした。母は専業主婦で、大学も家政

科を卒業していたせいか、料理が得意で、幼稚園から高校まで、弁当も毎日作ってくれました。

そのアパートは父親が勤めていた会社の社宅で、同じ棟の奥さんが料理教室を開いていたので、いろい

ろなお菓子も手作りで作ってくれました。キッチンには4畳半くらいのスペースに小さなテーブルが

あり、幼稚園や小学校から帰ってくると、そこに珍しいお菓子がよく乗っていました。

シュークリーム、アイスクリーム、ドーナツ、ケーキ。すべて母の手作りでした。

当時の家としては決して裕福ではありませんでしたが、「ハイカラ」だったと思います。