「こんなに強いのになぜ、みんな僕を嫌うのか?
千秋楽結びの一番、鶴竜に対する声援を全身で感じながら、意地で押し出した。
幕内最後の取り組みを終えて、涙をぬぐった。
一度はモンゴルに逃げ帰ったものの親方の説得で出戻った最年長優勝力士に
対して場内の声援は暖かかった。
二人とも決して抜群に強かった訳ではない。むしろ優勝常連力士には歯が立たなかった。
でも、悪びれずに頑張っている力士に対しては、誰もが好意を持つ。
だから、そういう力士が、常勝力士に勝つという奇跡みたいな事態に声援を
送るのである。強すぎるというのはそういうものだ。
闘争心は大相撲では必須で、最近優勝している力士は
「どうだ、俺が一番強いんだ」と土俵で得意顔になり、賞金を当たり前のようにひったくる。
だから強くても嫌うファンは多かった。
慈しみ(敗者への思いやり)があり、かつ強い横綱にはなれない。