住まいのエッセンス・第1章玄関 その1

物心ついた頃、私は北九州の3階建て鉄筋アパートの2階に住んでいました。

子供の頃に遊んだ場所に久しぶりに行ってみたりするとなぜか妙に道路や家が

小さく感じてしまいます。体が大きくなったためなのでしょうが、それにしてもこんな

に狭かったかなと驚いてしまいます。

もう十年以上も前になりますが、博多に出張した時に、北九州まで少し、足を伸ばしてみました。

鹿児島本線で、遠賀川を渡ると本当に懐かしい思いがこみ上げてきて、故郷に戻ってきたという気にな

ったものです。

そのアパートについては間取りくらいしか覚えておらず、

玄関がどのくらいの広さだったかの記憶はほとんどありません。

ただ、玄関は重い鉄板のドアで、それを開くと靴が2-3足で一杯のなるくらいの

スペースがあったと思います。多分、その横には下駄箱があって、少しは靴も置ける収容があったに

違いありません。玄関の記憶はあまりありませんが、一度、両親にこっぴどくしかられて、

家出したことがありました。その時は、一旦はアパートの外に出ましたが、結局、行くところもなく、

屋上に通じるドアの隅で「早くだれか見つけてくれないか」としくしく泣くしかありませんでした。

その思い出は今でも忘れることはなく、その時の固い冷たい鋼鉄のドアの片隅が目に浮かびます。

幼い子供にとっては、外界を隔てる自分の城門で、雨をしのぎ、外敵から身を守れる居心地のよい

場所だったのでしょう。

両親を含め5人が2DKの部屋でかつ団地間でしたから、多分、今見たら、びっくりするくらい

狭いのではないでしょうか?最近、用があって同じ形をしたアパートを訪問したことがありましたが、

まず、その階段の狭さに圧倒されてしまいました。大人が一人通ると、すれ違えることができないので

はないでしょうか?

たしか、じゃんけんをしながら、兄弟や近所の遊び仲間と一緒に「ぐりこ」とか「チョコレート」と言

いながら昇降をくりかえしたものです。